解説 | ③損害保険の契約の変更 |
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通知義務
- 1.
- 保険においては、一般的な売買契約のように商品を購入した時点で契約内容が完結するものではなく、保険期間が終了するまで継続するという特徴があり、契約を締結した時の保険料計算の前提となった状態が、保険期間の途中で変わることも想定しなければなりません。
- 2.
- そのために保険会社は、約款で契約者および被保険者に契約条件の変更に関する通知を求めています。このような通知を求めた事項(通知事項)について事実を告げる義務のことを、通知義務といいます。
- 3.
- 契約内容の変更によって危険(損害の発生の可能性または給付事由の発生の可能性)が増加する場合、その危険増加が引受けの範囲内であれば、追加保険料を支払うことにより契約を継続することができます。ただし、危険増加が引受けの範囲外であれば、保険会社の判断により契約が解除されることになります(他の商品に加入することにより対応するケースもあります。)。
- 4.
- 保険料の変更が必要となる場合には、危険増加が発生した日を基準として、変更前の保険料と変更後の保険料を比較し、差額を請求することになります。
- 5.
- なお、従来の取扱いとして商法では危険増加の事実を「あらかじめ」保険会社に通知することになっていたのですが、保険法では「遅滞なく」通知すれば足りるとされました。また、危険増加の起算点については、一義的には「危険(損害の発生の可能性または給付事由の発生の可能性)が増加した時」となります。
通知義務違反による解除
- 1.
- 危険増加が引受けの範囲内であって追加保険料を支払えば契約を継続することができるときであっても、契約者や被保険者が、通知事項について故意または重大な過失により遅滞なく通知しなかった場合(以下「通知義務違反」といいます。)は、保険会社は契約を解除することができます(注1)。
注1 保険法 第29条(危険増加による解除)
損害保険契約の締結後に危険増加(告知事項についての危険が高くなり、損害保険契約で定められている保険料が当該危険を計算の基礎として算出される保険料に不足する状態になることをいう。以下この条及び第31条第2項第2号において同じ。)が生じた場合において、保険料を当該危険増加に対応した額に変更するとしたならば当該損害保険契約を継続することができるときであっても、保険者は、次に掲げる要件のいずれにも該当する場合には、当該損害保険契約を解除することができる。
- 一
- 当該危険増加に係る告知事項について、その内容に変更が生じたときは保険契約者又は被保険者が保険者に遅滞なくその旨の通知をすべき旨が当該損害保険契約で定められていること。
- 二
- 保険契約者又は被保険者が故意又は重大な過失により遅滞なく前号の通知をしなかったこと。
【片面的強行規定】
2 前条第4項の規定は、前項の規定による解除権について準用する。この場合において、同条第4項中「損害保険契約の締結の時」とあるのは、「次条第1項に規定する危険増加が生じた時」と読み替えるものとする。【強行規定】
保険法 第85条(危険増加による解除)
傷害疾病定額保険契約の締結後に危険増加(告知事項についての危険が高くなり、傷害疾病定額保険契約で定められている保険料が当該危険を計算の基礎として算出される保険料に不足する状態になることをいう。以下この条及び第88条第2項第2号において同じ。)が生じた場合において、保険料を当該危険増加に対応した額に変更するとしたならば当該傷害疾病定額保険契約を継続することができるときであっても、保険者は、次に掲げる要件のいずれにも該当する場合には、当該傷害疾病定額保険契約を解除することができる。
- 一
- 当該危険増加に係る告知事項について、その内容に変更が生じたときは保険契約者又は被保険者が保険者に遅滞なくその旨の通知をすべき旨が当該傷害疾病定額保険契約で定められていること。
- 二
- 保険契約者又は被保険者が故意又は重大な過失により遅滞なく前号の通知をしなかったこと。
【片面的強行規定】
2 前条第4項の規定は、前項の規定による解除権について準用する。この場合において、同条第4項中「傷害疾病定額保険契約の締結の時」とあるのは、「次条第1項に規定する危険増加が生じた時」と読み替えるものとする。【強行規定】
- 2.
- なお、保険会社が契約解除の原因があることを知ったときから1か月、または危険増加時から5年を経過すると、保険会社は契約を解除することができません。
解除による効果
- 1.
- 通知義務違反による契約の解除は、将来に向かってのみ、その効力が生じて契約が終了し、解除前に遡及して契約が終了することはありません。また、契約の解除後に発生した保険事故による損害(または傷害疾病)に対しては、当然、保険会社は保険金を支払いませんが、契約の解除前に発生した保険事故による損害(または傷害疾病)に対しても、保険会社は保険金を支払いません。なお、すでに保険金を支払っている場合には保険金の返還を請求できます。
- 2.
- ただし、通知義務違反にあたる事実と保険事故による損害(または傷害疾病)との間に因果関係が認められない場合は、保険会社は保険金を支払います(注2)。なお、通知義務違反にあたる事実と保険事故による損害(または傷害疾病)の間の因果関係に関する立証責任は契約者側が負うこととなります。
- 注2
- 保険法 第31条(解除の効力)
損害保険契約の解除は、将来に向かってのみその効力を生ずる。【片面的強行規定】
2 保険者は、次の各号に掲げる規定により損害保険契約の解除をした場合には、当該各号に定める損害をてん補する責任を負わない。
- 一
- 第28条第1項 解除がされた時までに発生した保険事故による損害。ただし、同項の事実に基づかずに発生した保険事故による損害については、この限りでない。
- 二
- 第29条第1項 解除に係る危険増加が生じた時から解除がされた時までに発生した保険事故による損害。ただし、当該危険増加をもたらした事由に基づかずに発生した保険事故による損害については、この限りでない。
- 三
- 前条 同条各号に掲げる事由が生じた時から解除がされた時までに発生した保険事故による損害
【片面的強行規定】
保険法 第88条(解除の効力)
傷害疾病定額保険契約の解除は、将来に向かってのみその効力を生ずる。【片面的強行規定】
2 保険者は、次の各号に掲げる規定により傷害疾病定額保険契約の解除をした場合には、当該各号に定める事由に基づき保険給付を行う責任を負わない。
- 一
- 第84条第1項 解除がされた時までに発生した傷害疾病。ただし、同項の事実に基づかずに発生した傷害疾病については、この限りでない。
- 二
- 第85条第1項 解除に係る危険増加が生じた時から解除がされた時までに発生した傷害疾病。ただし、当該危険増加をもたらした事由に基づかずに発生した傷害疾病については、この限りでない。
- 三
- 第86条 同条各号に掲げる事由が生じた時から解除がされた時までに発生した給付事由
【片面的強行規定】
- 3.
- 通知義務違反により契約が解除された場合、未経過期間に対し保険会社が定める計算方法で算出された保険料が返還されます。
通知義務違反の対応のイメージ
- 保険期間の途中のある時点で、契約当初と比べて危険(損害の発生の可能性)が増加した契約があったとします。
契約者または被保険者は危険増加後に遅滞なく保険会社に危険(損害の発生の可能性)が増加したことを通知する必要があり、通知を受けた保険会社は危険(損害の発生の可能性)が増加した時点から、その増加分に見合うだけの保険料を追加で請求することとなります。 - 契約者または被保険者が通知義務違反をした場合は、通知義務違反にあたる事実と保険事故による損害の間に因果関係が認められない場合には保険金が支払われますが、通知義務違反にあたる事実と保険事故による損害の間に因果関係が認められる場合には保険金が支払われません。
保険料を収受していない増加した危険(損害の発生の可能性)について補償を行うことは、保険料負担の公平の原則(「保険料負担の公平の原則」参照)に反することから、このような取扱いとしています。
- ●参考文献:
- 「新保険法(損害保険・傷害疾病保険)逐条改正ポイント解説」(保険毎日新聞社、2008年7月発行)94ページ
満期通知
- 保険会社には契約者に対し契約の満期時に通知をする義務はありません。満期管理(満期日のチェックと継続手続)については、契約者自身の責任で管理していくことが必要です。
- しかし、保険会社では、契約の継続手続きの忘れを防ぐために、サービスの一環として満期通知を行う場合があります。
- なお、自動的に契約を継続させるように設定した場合には、満期通知ではなく、満期前に契約の継続を確認する書面が送付されます。