解説 | ①損害保険相談の特徴 |
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損害保険は「偶然な事故によって生じた損害」を補償する保険です。私たちの日常生活や企業活動は、様々な危険(リスク)にさらされていることから、保険会社は、万が一の場合の備えとして補償を提供するために、数多くの保険商品を開発し販売しています。
このような損害保険に関する相談の特徴としては、次の点が挙げられますので、留意が必要です。
- ①
- 「損害保険商品は、事故後に保険会社からサービスの提供を受けて、初めて商品内容が具現化する」ことなどもあり、相談者が商品内容を十分に理解していない可能性があることを念頭に入れて、相談対応を行う必要があること
損害保険は、多くの方に契約いただいている身近な商品です。しかし、次の点を勘案すると、契約内容を十分に理解していない契約者もいるかもしれません。このため相談対応にあたっては、保険会社や代理店からどのような説明を受けたのか、約款などを読んで補償内容を確認したかなどを相談者に質問して、契約内容の理解度合いを確認することが必要です。十分ではないと推察される場合には、保険会社等から説明を受け、それでも納得できない場合に再度相談するようアドバイスすることが考えられます。
- (1)
- 「損害保険商品は、事故に遭ったときに保険会社からサービスの提供を受けて、初めて商品内容が具現化する」ものであること
- 損害保険商品は無形の商品でもあり、平素、その存在や内容を認識する機会が少なければ、契約時に受けた商品説明に関する記憶は薄れがちとなります。このため、事故に遭った契約者の中には、実際の補償内容が自分の考えていたものと異なることに不満足を感じて相談される方もいます。
- (2)
- 約款は、契約内容(契約者と保険会社の権利・義務など)を詳細に規定しているものであること
- 約款は、契約内容を詳細に規定しており、非常に重要なものですが、契約に基づく各種サービスを公平かつ的確に契約者へ提供できるようにしているため、約款の条項や文章量が多くなりやすい傾向にあります。契約者が上記(1)のような不満足を感じないようにするためにも、約款を読んでもらう必要がありますが、その内容を正確かつ詳細に規定すればするほど、契約者は読むことを敬遠してしまうのかもしれません。
- (3)
- 付帯(セット)されている特約条項によって、約款の内容が一部変更されることがあるため、これらをあわせ読みする必要があること
- 約款は、各保険契約に共通する契約条件などを規定していることもあり、個々の契約者のニーズを完全に満たすことは難しいといわざるを得ません。このため、これらの契約条件などを追加・変更・削除する種々の特約条項が用意されています。しかし契約者にとっては、読むべき文章量が増え、さらに、特約条項による契約条件などの変更などを念頭に入れつつ約款を読まなければならないことから、負担感をさらに感じるかもしれません。
このことから保険会社は、契約時における重要事項(契約概要や注意すべき契約条件など)の説明の徹底に加えて、約款をより分かりやすい内容にするための見直しや、数多くあった特約条項の統合・削減などの対応を行っています。
- ②
- 「損害保険商品の補償内容・範囲は、同じ保険種目であっても、保険会社によって異なる可能性がある」ことを前提に、相談対応を行う必要があること
保険会社は、契約者のニーズに応えるため、損害保険商品の開発・改良に努めています。このため、自賠責保険と地震保険以外の損害保険商品は、同じ保険種目であっても、各保険会社によって補償内容・範囲が異なることがあります。
このため、相談者から説明のあった損害保険商品の名称や保険種目からだけでは、当該契約の補償内容・範囲と結びつきにくくなることも考えられます。
よって、「損害保険商品の補償内容・範囲は、同じ保険種目であっても、保険会社によって異なる可能性がある」ことを前提に、まず、相談者から、契約している損害保険商品の概要をよくお聞きしたうえで、相談対応を行う必要があります。ただし、相談者も説明できない場合もありますので、関係資料(パンフレット、約款、保険証券など)を手元に用意するようお願いすることが望ましいといえます。
- ③
- 自動車保険(対人・対物賠償責任保険)などの賠償責任保険の保険金支払いに関しては、契約の当事者でも関係者でもない第三者(被害者)からも相談が寄せられること
賠償責任保険は、契約者や被保険者が「法律上の損害賠償責任を負担することによって被る損害」を補償する保険です。したがって、下記「ケース1」にあるとおり、加害者(契約者・被保険者)が被害者に示談金を支払った後に、保険会社は加害者に保険金を支払うので、保険会社は、基本的には、第三者である被害者と直接話し合う立場にないことになります。
しかし、自動車保険(対人・対物賠償責任保険)のように、保険会社による被害者との示談交渉サービスが付帯(セット)されている契約であれば、保険会社は、加害者に代わって示談交渉の当事者として被害者と話し合い、保険金を示談金として被害者に支払います(下記「ケース2」参照)。また、自動車損害賠償保障法第16条(注)に基づき、被害者が保険会社に保険金を直接請求する場合もあります。このようなことから、契約の当事者でも関係者でもない第三者(被害者)からも、補償内容や範囲に関する相談が寄せられることがあります。
なお、賠償責任保険の補償内容や範囲に関する相談に対応するには、商品内容の知識よりも、民法(不法行為責任)や自動車損害賠償保障法などに関する知識が必要となります。このため、相談者から、賠償事故における法的な補償内容や範囲に関する相談が寄せられた場合には、弁護士会が行っている法律相談などを案内することも考えられます。
注 自動車損害賠償保障法 第16条(保険会社に対する損害賠償額の請求)第1項
第3条(※)の規定による保有者の損害賠償の責任が発生したときは、被害者は、政令で定めるところにより、保険会社に対し、保険金額の限度において、損害賠償額の支払いをなすべきことを請求することができる。
- ※
- 自動車損害賠償保障法 第3条(自動車損害賠償責任)
自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によって他人の生命又は身体を害したときは、これによって生じた損害を賠償する責に任ずる。ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があったこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかったことを証明したときは、この限りでない。