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共通 / Ⅰ. 損害保険について

解説

③損害保険を規制する法律など

損害保険会社を規制する法律には、保険監督法の基本法に位置付けられている保険業法があります。保険業法は、「保険業の公共性にかんがみ、保険業を行う者の業務の健全かつ適切な運営及び保険募集の公正を確保することにより、保険契約者等の保護を図ること」を目的として制定されています。また、「保険会社に対する監督」と「保険募集に対する監督」の両面について規定しています。

「保険会社に対する監督」としては、保険業を営むには主務官庁(金融庁)に一定の書類を提出し、審査を受け、内閣総理大臣の免許を受けることを必要としており、経営形態を株式会社か相互会社に限定しています。また、業務範囲、経理事項、保険商品の審査、保険会社の健全性維持のための措置、保険会社が破綻した場合の契約者保護のための措置など、様々な事項について規定が設けられています。なお、外国保険業者が日本で保険業を営む場合においても同様に、監督する規定が設けられています。

「保険募集に関する監督」としては、保険募集に従事する者についての登録制度に関する事項、保険募集の際の不公正・不当な行為の禁止に関する事項、主務官庁が損害保険代理店等に対して行う検査・命令に関する事項、クーリング・オフ制度に関する事項などの規定が設けられています。

保険業法以外にも損害保険に関連する法律は、保険法、民法、商法、消費者契約法、金融商品の販売等に関する法律、個人情報の保護に関する法律などがあります。

保険法
保険法
2010年4月から施行された法律で、保険契約者と保険会社との間の権利・義務関係等、保険契約(共済契約を含む)に関する基本的事項を定めている。具体的には、以下の事項である。
保険に関する用語の定義(保険契約・保険者・保険契約者・被保険者・保険金受取人など)
保険契約の目的(被保険利益)
保険金額と保険価額に関する事項(一部保険・超過保険・重複保険)
保険契約者等の義務に関する事項(告知義務・通知義務・損害防止義務)
保険者の責任に関する事項(保険金の支払い・保険金支払いの履行期・免責事由)
商 法 1899年に制定されてから保険法が施行されるまでの100年以上にわたり保険契約全般に関する基本的事項を定めていた。
保険法施行に伴い、保険契約全般に関する規定が無くなり、海上保険契約に関する規定のみが残されている。
消費者契約法 消費者と事業者との間で情報、交渉力の格差があることから、契約締結時における事業者の不実告知等不適切な説明によって消費者に「誤認」 が生じた場合や、事業者の不退去等によって消費者が「困惑」した場合には、この契約を取消すことができることとしている。
また、事業者の損害賠償責任等を制限する条項など、消費者の利益を著しく害する条項を無効とするほか、一定の消費者団体に事業者の不当な行為に対する差止請求権を認める消費者団体訴訟制度などにより、消費者保護を図っている。
金融サービスの
提供に関する
法律
金融商品販売業者等が金融商品の販売に際して、顧客に対し重要事項(「価格変動リスク」「信用リスク」等)を説明することを義務付け、この重要事項を説明しなかったことによって顧客に損害が生じた場合、金融商品販売業者等が損害賠償責任を負うことを定めている(重要事項の説明は「顧客の知識、経験、財産の状況及び当該金融商品の販売に係る契約を締結する目的に照らして、当該顧客に理解されるために必要な方法及び程度によるものでなければならない」と規定されている。)。また、金融商品販売業者等に対し、商品の販売に関する方針(「勧誘方針」)を策定し公表する義務を課すことによって、顧客の保護を図ることを目的としている。多種多様な金融サービスのワンストップ提供に関するニーズ等に対応するため、2020年に「金融商品の販売等に関する法律」が改正され、金融サービス仲介業に関するルール等が盛り込まれた「金融サービスの提供に関する法律」が2021年11月1日に施行された。
個人情報の
保護に関する
法律
高度情報通信社会の進展に伴って、個人情報の利用が著しく拡大していることにかんがみ、個人情報の適正な取扱いに関し、個人情報取扱事業者の遵守すべき義務等を定めることにより、個人情報の有用性に配慮しつつ、個人の権利利益を保護することを目的としている。
個人情報取扱事業者には、利用目的の特定、適正な取得、利用目的の通知・公表・明示、安全管理措置、従業者・委託先の監督、第三者提供の制限、開示・訂正・利用停止請求への対応等の義務が課せられている。これに加え、2022年4月1日施行の改正法では、利用停止等の権利の拡充、開示のデジタル化推進、漏えい等報告の義務化、提供先において個人データとなることが想定される個人関連情報の第三者提供に関する本人同意等の確認義務など、新たに対応すべき規定が盛り込まれている。
損害保険料率
算出団体に
関する法律
各保険会社が公正な損害保険料率を算出するための基礎資料となる参考純率等を算出・提供する損害保険料率算出団体について、その業務の適切な運営を確保し、損害保険業の健全な発達と保険契約者などの利益保護を目的として制定されたものである。この法律に基づいて損害保険料率算出機構が設けられている。
自動車損害賠償
保障法
自動車による人身事故の場合の損害賠償を保障する制度を確立することによって、被害者保護を図ることを目的として制定されたものである。自動車人身事故の加害者の賠償資力を確保するために、特殊な例外を除き、すべての自動車保有者に対して自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)または自動車損害賠償責任共済(自賠責共済)の契約締結を強制している。
地震保険に
関する法律
住宅および家財について保険会社が引受けた地震保険の支払責任を政府が一定の条件により再保険として引受けることによって地震保険の普及を図り、地震等による被災者の生活の安定に寄与することを目的として制定されたものである。

保険法

保険法における任意規定・強行規定・片面的強行規定について

  • 保険法の各規定は、「任意規定」「強行規定」「片面的強行規定」「その他の規定」の4つの性質のいずれかに分類されます。このうち、「片面的強行規定」については、保険法の中で条文ごとに規定が置かれていますが、「任意規定」か「強行規定」かについては、保険法の条文を個々に解釈して決められることになっています(「任意規定」か「強行規定」かを定める規定は存在しません。)。
  • 条文の解釈で
    決まるもの
    ①任意規定:
    契約自由の原則に基づき、当事者同士の約定(約款)で決まるもの
    (例)損害の発生及び拡大の防止に関する規定(保険法第13条)
    ②強行規定:
    公の秩序(公序良俗)に関する規定で当事者間同士では変更できないもの
    (例)被保険者の同意に関する規定(保険法第38条)
    ③その他の規定:
    任意規定にも強行規定にも当てはまらない規定
    (例)定義規定(保険法第2条)
    条文に規定
    されているもの
    ④片面的強行規定:
    保険法の規定よりも、保険契約者・被保険者・保険金受取人などに不利になるような変更をすることができない規定
    (例)告知義務に関する規定(保険法第4条)
  • 従来の商法では、上記のように各条文の性質を定める規定は存在していなかったのですが、契約者保護を図ることを目的として、「特定商取引に関する法律」や「割賦販売法」等の改定において先に「片面的強行規定」が導入されていたこともあり、保険法においても同様の規定が設けられることとなりました。
●参考文献:
東京海上日動火災保険株式会社 編著「損害保険の法務と実務」
(一般社団法人金融財政事情研究会、2010年7月発行)214〜216ページ
新生綜合法律事務所 監修「新保険法 実務者の必携逐条解説」
(株式会社保険教育システム研究所、2008年12月初版発行)17〜18ページ

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