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共通 / Ⅳ.損害保険の契約について

解説

④損害保険の契約の終了

損害保険の契約の終了、無効、取消し、失効、解除

1.
終了
契約の終了事由には、次のようなものがあります。
定められた保険期間が満了となったとき
保険事故により支払われた保険金が、あらかじめ定められた保険金額に達したとき
2.
無効
例えば、次のような場合には契約は無効となります。
契約者が、保険金を不法に取得する目的または第三者に保険金を不法に取得させる目的をもって契約を締結したとき(注1)
契約を締結する前に発生した保険事故による損害を補償する(または傷害疾病による治療・死亡等に基づき保険金を支払う)契約(遡及保険)について、当該契約の申込み・承諾をした時において、契約者等がすでに保険事故(または傷害疾病による治療・死亡等)が発生していることを知っていたとき(注2)
注1
民法 第90条(公序良俗)

公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。

保険法

注2
保険法 第5条(遡及保険)第1項

損害保険契約を締結する前に発生した保険事故(損害保険契約によりてん補することとされる損害を生ずることのある偶然の事故として当該損害保険契約で定めるものをいう。以下この章において同じ。)による損害をてん補する旨の定めは、保険契約者が当該損害保険契約の申込み又はその承諾をした時において、当該保険契約者又は被保険者が既に保険事故が発生していることを知っていたときは、無効とする。【強行規定】

保険法 第68条(遡及保険)第1項
傷害疾病定額保険契約を締結する前に発生した給付事由に基づき保険給付を行う旨の定めは、保険契約者が当該傷害疾病定額保険契約の申込み又はその承諾をした時において、当該保険契約者、被保険者又は保険金受取人が既に給付事由が発生していることを知っていたときは、無効とする。【強行規定】

3.
取消し
例えば、次のような場合には契約を取消すことができます。
未成年者が、法定代理人の同意を得ないまま契約を締結したとき(注3)
保険会社が、契約者等の詐欺または強迫によって契約を締結したとき(注4)
注3
民法 第5条(未成年者の法律行為)

未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。
2 前項の規定に反する法律行為は、取り消すことができる。
3 第一項の規定にかかわらず、法定代理人が目的を定めて処分を許した財産は、その目的の範囲内において、未成年者が自由に処分することができる。目的を定めないで処分を許した財産を処分するときも、同様とする。

注4
民法 第96条(詐欺又は強迫)

詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。

4.
失効
保険事故以外の事故によって保険の対象になる物や人が滅失したり死亡したりした場合などについては、契約の当事者の意思表示がなくても、原則として契約は失効します。
5.
解除
契約者は、いつでも契約を解除(解約)することができます(注5)。
また、保険会社は、例えば、次のような場合には契約を解除することができます。
告知義務違反があったとき
通知義務違反があったとき
保険料不払い(保険料の分割払いにおける保険料未納の場合等)があったとき(注6)
保険会社の契約者等に対する信頼を損ない、契約の存続を困難とするような重大な事由(以下「重大事由」といいます。)があったとき(注7)

保険法

注5
保険法 第27条(保険契約者による解除)

保険契約者は、いつでも損害保険契約を解除することができる。【任意規定】

保険法 第83条(保険契約者による解除)
保険契約者は、いつでも傷害疾病定額保険契約を解除することができる。【任意規定】

途中で解除(解約)する際の手続きの進め方と注意点

  • 契約を保険期間の途中で解除(解約)する場合には、契約者は保険会社に対して所定の書面により通知する必要があります。
  • 保険期間の途中で解除(解約)した場合は、残りの保険期間に応じて保険料が返還されます。ただし、保険会社の経費に充てられる部分が差し引かれる場合があるため、残りの保険期間分の保険料がすべて返還されるとは限りません。例えば、保険期間が1年・保険料一括払いの契約で契約から6か月後に解除(解約)しても、必ずしも払い込んだ保険料の半分が返還されるわけではないということです。
  • 契約を解除(解約)する場合には、次のような点に注意することが必要です。
    1.
    火災保険の保険金請求権に質権または譲渡担保権が設定されているときは、あらかじめ質権者または譲渡担保権者の書面による同意を得る必要があります。
    2.
    積立型の保険の保険料には、保険会社の経費に充当される部分が含まれていますので、解約返戻金が既払保険料の合計額より少なくなる場合があります。とりわけ、保険料の払込方法が一括払い以外で、契約後、短期間のうちに解除(解約)した場合には、解約返戻金が全くないこともあります。
注6
民法 第541条(催告による解除)

当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。

保険法

注7
保険法 第30条(重大事由による解除)

保険者は、次に掲げる事由がある場合には、損害保険契約を解除することができる。

保険契約者又は被保険者が、保険者に当該損害保険契約に基づく保険給付を行わせることを目的として損害を生じさせ、又は生じさせようとしたこと。
被保険者が、当該損害保険契約に基づく保険給付の請求について詐欺を行い、又は行おうとしたこと。
前二号に掲げるもののほか、保険者の保険契約者又は被保険者に対する信頼を損ない、当該損害保険契約の存続を困難とする重大な事由

【片面的強行規定】

保険法 第86条(重大事由による解除)
保険者は、次に掲げる事由がある場合には、傷害疾病定額保険契約を解除することができる。

保険契約者、被保険者又は保険金受取人が、保険者に当該傷害疾病定額保険契約に基づく保険給付を行わせることを目的として給付事由を発生させ、又は発生させようとしたこと。
保険金受取人が、当該傷害疾病定額保険契約に基づく保険給付の請求について詐欺を行い、又は行おうとしたこと。
前二号に掲げるもののほか、保険者の保険契約者、被保険者又は保険金受取人に対する信頼を損ない、当該傷害疾病定額保険契約の存続を困難とする重大な事由

【片面的強行規定】

保険法

重大事由による契約解除

  • 重大事由
    1.
    保険の契約成立の前提として、当事者間に信頼関係があることが求められます。故意に事故を起こすなど、契約者側に保険会社との信頼関係を破壊するような行為(重大事由)があった場合には、従来の商法では解除の規定がなかったのですが、保険法では保険会社が契約を解除することができると規定されています(これを「重大事由解除」といいます。)。
    2.
    重大事由によって保険会社が契約を解除することができるのは、次のような場合です。
    契約者等(被保険者、保険金を受け取るべき者(以下「保険金受取人」といいます。)を含む。)が、契約に基づく保険金を支払わせることを目的として損害(または傷害疾病による治療・死亡等)を生じさせ、または生じさせようとした場合
    被保険者または保険金を受け取るべき者が、この保険契約に基づく保険金の請求について、詐欺を行い、または行おうとした場合
    ①〜②のほか、契約者等に対する保険会社の信頼を損ない、契約の存続を困難とする事由を生じさせた場合
    3.
    上記のほか、他の保険契約等との重複によって、被保険者に係る保険金額等の合計額が著しく高額となり、保険制度の目的に反する状態がもたらされるおそれがある場合にも契約を解除することがあり、特に傷害保険・医療保険などでは、この旨が約款に明記されているのが一般的です(注8)。

注8 傷害保険普通保険約款 第19条(重大事由による解除)

(1)
当会社は、次の@からDまでのいずれかに該当する事由がある場合には、保険契約者に対する書面による通知をもって、この保険契約を解除することができます。
保険契約者、被保険者または保険金を受け取るべき者が、当会社にこの保険契約に基づく保険金を支払わせることを目的として傷害を生じさせ、または生じさせようとしたこと。
被保険者または保険金を受け取るべき者が、この保険契約に基づく保険金の請求について、詐欺を行い、または行おうとしたこと。
保険契約者が、次のア.からオ.までのいずれかに該当すること。
ア.
反社会的勢力(注1)に該当すると認められること。
イ.
反社会的勢力(注1)に対して資金等を提供し、または便宜を供与する等の関与をしていると認められること。
ウ.
反社会的勢力(注1)を不当に利用していると認められること。
エ.
法人である場合において、反社会的勢力(注1)がその法人の経営を支配し、またはその法人の経営に実質的に関与していると認められること。
オ.
その他反社会的勢力(注1)と社会的に非難されるべき関係を有していると認められること。
他の保険契約等との重複によって、被保険者に係る保険金額、入院保険金日額、通院保険金日額等の合計額が著しく過大となり、保険制度の目的に反する状態がもたらされるおそれがあること。
①から④までに掲げるもののほか、保険契約者、被保険者または保険金を受け取るべき者が、①から④までの事由がある場合と同程度に当会社のこれらの者に対する信頼を損ない、この保険契約の存続を困難とする重大な事由を生じさせたこと。
(2)
当会社は、次の@またはAのいずれかに該当する事由がある場合は、保険契約者に対する書面による通知をもって、この保険契約(注2)を解除することができます。
@
被保険者が、(1)Bア.からウ.までまたはオ.のいずれかに該当すること。
A
被保険者に生じた傷害に対して支払う保険金を受け取るべき者が、(1)Bア.からオ.までのいずれかに該当すること。
(3)
(1)または(2)の規定による解除が傷害(注3)の発生した後になされた場合であっても、第21条(保険契約解除の効力)の規定にかかわらず、(1)@からDまでの事由または(2)@もしくはAの事由が生じた時から解除がなされた時までに発生した傷害(注3)に対しては、当会社は、保険金(注4)を支払いません。この場合において、既に保険金(注4)を支払っていたときは、当会社は、その返還を請求することができます。
(注1)
反社会的勢力
暴力団、暴力団員(暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者を含みます。)、暴力団準構成員、暴力団関係企業その他の反社会的勢力をいいます。
(注2)
保険契約
その被保険者に係る部分に限ります。
(注3)
傷害
(2)の規定による解除がなされた場合は、その被保険者に生じた傷害をいいます。
(注4)
保険金
(2)のAの規定による解除がなされた場合は、保険金を受け取るべき者のうち、(1)Bア.からオ.までのいずれかに該当する者の受け取るべき金額に限ります。
  • 解除による効果
    1.
    重大事由による契約の解除は、将来に向かってのみ、その効力が生じて契約が終了し、解除前に遡及して契約が終了することはありません。
    また、契約の解除後に発生した保険事故による損害(または傷害疾病)に対しては、当然、保険会社は保険金を支払いませんが、重大事由が生じた時から契約が解除されるまでの間に発生した保険事故による損害(または傷害疾病)に対しても、保険会社は保険金を支払いません。なお、すでに保険金を支払っている場合には保険金の返還を請求できます。
    2.
    重大事由により契約が解除された場合の保険料返還の取扱いは、以下のとおりです。
    自動車保険・火災保険・傷害保険など
    未経過期間に対して保険会社が定める計算方法で算出された保険料が返還されます。
    医療保険
    保険料払込期間が終了している場合には、解約返戻金が返還されます。保険料払込期間中に契約が解除となる場合においては、保険料が返還されないこととしている商品もあります。
    3.
    なお、保険法においては、不正利用事案に適切に対処するという重大事由解除の制度趣旨にかんがみ、重大事由と保険事故による損害(または傷害疾病)との間の因果関係が認められない場合に保険会社が保険金を支払う旨の規定や、保険会社の契約解除権の行使期間を制限する旨の規定は設けられていません。
●参考文献:
萩本修 編「一問一答保険法」(商事法務、2009年5月発行)99〜104ページ
●参考文献:
東 京海上日動火災保険株式会社編著「損害保険の法務と実務【第2版】」(一般社団法人金融財政事情研究会、2016年7月発行)368〜398ページ

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