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すまいの保険 / 火災保険

問52

隣家からの「もらい火」で自宅が焼失した場合に、隣家へ損害賠償請求はできないのですか。

答え
失火の原因が隣家の「重大な過失」である場合を除き、損害賠償請求はできません。

故意または過失によって火事を起こして他人に損害を与えた場合、本来であれば民法第709条(注1)に規定する不法行為に基づく損害賠償責任を負うことになります。しかし、かつての日本では木造の建物が多かったため、類焼の危険性があること、また失火者自身も通常、自己の建物を焼失し損害を受けており、損害賠償責任を負わせるのは酷であるという考え方から、「失火ノ責任ニ関スル法律(失火責任法)」(注2)が定められ、失火者の責任が緩和されています。

注1 民法 第709条(不法行為による損害賠償)
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

注2 失火ノ責任ニ関スル法律(失火責任法)
民法第七百九条ノ規定ハ失火ノ場合ニハ之ヲ適用セス但シ失火者ニ重大ナル過失アリタルトキハ此ノ限ニ在ラス

この法律により、失火によって他人の家が延焼した場合であっても、失火者に「重大な過失(注3)」がなければ、損害賠償責任を負わせないことになっています。これは逆の立場から見ると、隣家から出た火災によって自分の家が焼失してしまった場合でも、隣家へ損害賠償請求ができないということになります。 
そのため、自分の家からの出火の場合だけでなく、隣家からの延焼火災に備える意味でも、各自が火災保険を契約しておくことが必要ということになります。

注3 重大な過失
「重大な過失」に相当するかどうかは、個々の案件ごとに判断されます。「重大な過失」とは、常識的な注意ではなく、少し注意すれば事故が起きなかったのに漫然と事態を見過ごしてしまった場合のことです。例えば以下のような場合が、重大な過失によって損害が発生したケースであると考えられています。また、軽度な過失であっても、それが2度目となると重大な過失に該当するという考え方もあります。

  • 台所のガスコンロに天ぷら油の入った鍋をかけて加熱中、その場を離れて出火させた場合
  • たばこの吸殻が完全に消えたことを確認せず、その吸殻を紙類が入ったビニール製ごみ袋に入れて放置したまま外出し、出火した場合
  • 漏電の可能性があり回線修理等の指摘を受けたが、適切な措置を講じなかったため、漏電により出火した場合 など

なお、失火責任法で損害賠償義務を免れるのは民法第709条の不法行為責任についてのみであることに注意が必要です。 
例えば、賃貸住宅の場合、賃借人(入居者)は賃貸人(家主)と賃貸借契約を締結しますが、退去時には原状を回復して返還する義務を負っているのが一般的です。そしてこれが履行されなかった場合には、民法第415条(注4)に規定する債務不履行に基づく損害賠償責任を負うことになります。この民法第415条は失火責任法の適用を受けないため、失火を起こしてしまった賃借人(入居者)は賃貸人(家主)に対して、債務不履行に基づく損害賠償責任を負うことになります。

注4 民法 第415条(債務不履行による損害賠償)
債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。

賃貸住宅の場合、建物自体は家主の所有となるため、家主が建物と家財に対し火災保険を契約していることが考えられますが、その保険で補償される家財は家主自身の所有物であり、入居者が所有する家財は補償されません。入居者が家財の損害に備えるには、自らが家財に対する火災保険を契約する必要があります。そして、上記のとおり、失火によって戸室を焼失させた場合の家主に対する損害賠償責任に備えるためには、家財の火災保険に特約として「借家人賠償責任補償特約(注5)」を付帯(セット)する必要があります。

注5 借家人賠償責任補償特約
借家人の責に帰すべき火災、破裂・爆発等で借用戸室を損害し、家主に対して損害賠償責任を負ったときの損害を補償する火災保険の特約

「借家人賠償責任保険(補償特約)」は、借りた戸室に対する損害賠償責任を補償してくれるので、「ボヤ火災」などの戸室内に生じる損害に備えるうえでは便利な保険です。しかし、例えばガス爆発などの事故を起こしてしまった場合には、借りた戸室のみならず、近隣の建物にも被害が生じるおそれがあります。近隣の建物は自己が借りた戸室ではないため、「借家人賠償責任保険(補償特約)」では補償されません。また、ガス爆発による延焼被害は失火ではないため、失火責任法の適用もありません。
このような事態に備えるには、別途、「個人賠償責任保険(補償特約)」(「問92」参照)を契約する必要があります。
この「個人賠償責任保険(補償特約)」では、ガス爆発などによる近隣の建物の損壊や住民の身体の障害(ケガや死亡など)といった損害のほか、水漏れなどによって階下の住民の家財に損害を与えた場合など、日常生活で発生する様々な賠償事故による損害を補償してくれます。ただし、借りた戸室に対する損害賠償責任は補償されません。
このため、賃貸住宅に住む場合には、「借家人賠償責任保険(補償特約)」と「個人賠償責任保険(補償特約)」の2つの契約があった方が安心です(自己所有の住宅でも、ガス爆発などの事故に備えるには「個人賠償責任保険(補償特約)」の加入が必要です。)。

失火者に対する火災保険の保険金支払い

  • 失火者が火災保険に加入している場合には、費用保険金が支払われる場合があります。これは、災害時の臨時費用(例えば、仮住まいの費用)や残存物の取り片づけ費用(例えば、焼け跡の整理にかかる費用)などについて保険金を支払うというものです。さらに、失火者は「重大な過失」がない限り、近隣住民に対する損害賠償責任を負わないことになっていますが、近隣住民に損害を与えてしまったときに道義的な対応として見舞金を出す場合などに備えて、その費用(失火見舞費用)についても保険金支払いの対象としている商品があります。

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