問80 | 海外旅行保険は、どのような保険ですか。 |
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- 答え
- 海外旅行中に被ったケガや病気による死亡・後遺障害・治療費用のほか、賠償責任、携行品損害、救援者費用などを補償する保険です。
海外旅行保険は、被保険者が海外旅行を目的として住居を出発してから帰着するまでの間(以下「旅行行程中」といいます。)に被る可能性のある各種の危険(リスク)を補償(注1)する保険です。各種の危険(リスク)を総合的に補償する商品のほか、必要な補償だけを選んで契約する、いわゆるバラ売りの商品も用意されています。また、インターネットでの申込みにより保険料が割引となる商品もあります。
注1 海外の滞在地や往復の航空機内だけでなく、住居から往きの空港に着くまでや帰りの空港から住居までといった、日本国内で発生した事故についても補償対象となります。
主な補償内容は次のとおりです(総合的に補償するタイプの場合)。
傷害治療費用(注2) | 旅行行程中でのケガの治療費用を補償 |
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疾病治療費用(注2) | 旅行行程中での病気の治療費用(注3)を補償 |
傷害死亡 | 旅行行程中でのケガで死亡した場合を補償 |
傷害後遺障害 | 旅行行程中でのケガによって後遺障害を負った場合に補償 |
疾病死亡 | 旅行行程中での病気で死亡した場合を補償 |
賠償責任 | 旅行行程中に誤って他人にケガをさせたり他人の物を壊して法律上の賠償責任を負った場合(注4)を補償 |
携行品損害 | 旅行行程中に「被保険者が所有かつ携行する身の回り品」(注5)が盗難にあったり壊れた場合を補償(注6) |
救援者費用 | 海外旅行先でケガや病気で入院して家族が現地に駆けつけた場合の費用を補償 |
入院一時金 | 旅行行程中でのケガや病気で一定期間以上入院した場合を補償 |
航空機寄託手荷物遅延費用 | 手荷物の到着が遅れて身の回り品を購入した場合の費用を補償 |
航空機遅延費用 | 航空機が遅れて宿泊代・食事代などを別途自己負担した場合の費用を補償 |
旅行変更費用 | 被保険者や同行予定者などの死亡・危篤、被保険者などの入院、渡航先での地震・戦争・テロ行為などの発生のために出国を中止または海外旅行を途中で取り止めて帰国した場合の費用を補償 |
偶然事故対応費用 | 旅行行程中の予期せぬ偶然な事故で被保険者が負担を余儀なくされた費用(交通費、宿泊代、食事代、通信費など)を補償 |
注2 傷害治療費用保険金または疾病治療費用保険金の支払いは、次のいずれかになります。
- ①
- 日本国内において治療を受けた場合、自己負担額として病院や医療機関に直接支払う費用
- ※
- 公的医療保険(健康保険など)や政府労災保険(労働者災害補償保険)などから治療費が給付され、病院や医療機関に直接支払うことが必要とされない部分には支払われません。
- ②
- 海外において治療を受けた場合、病院や医療機関に直接支払う費用
- ※
- 海外において日本と同様の公的保険制度がある場合で、その制度により病院や医療機関に直接支払うことが必要とされない部分には支払われません。
注3 病気の治療費用は、次のいずれかに該当する必要があります。
- ①
- 旅行行程中に発病した病気であって、旅行行程中または旅行行程終了後72時間までの間に医師の治療を受けた場合の費用
- ②
- 旅行行程中に感染した特定感染症(※)であって、海外旅行終了日から30日までの間に医師の治療を受けた場合の費用
- ※
- コレラ、ペスト、マラリア、重症急性呼吸器症候群(いわゆるSARS)、エボラ出血熱、デング熱、高病原性鳥インフルエンザ、赤痢、腸チフス など
なお、1つの病気の経過中に、その病気に因果関係のある他の病気が重ねて発生した場合(例えば、急性虫垂炎の治療中に腹膜炎を併発した場合など)には1つの病気として取扱いますが、因果関係のない他の病気が重ねて発生した場合には2つの病気として取扱い、各々の病気に対し疾病治療費用保険金額を適用することとなります。
注4 補償対象は個人賠償責任保険(「問92」参照)の海外版に相当しますが、個人賠償責任保険では補償対象外になる「被保険者が所有、使用、管理する財物の正当な権利を有する者に対する損害賠償責任」についても、その一部が補償対象になっています。具体的には、ホテルなどの宿泊施設の客室や客室内の動産(テレビ、ベッドなどの備品類)に与えた損害、レンタル業者から借り入れた旅行用品や生活用品に与えた損害について、保険会社で用意している商品の多くは補償対象としています。これは、「被保険者が所有、使用、管理する財物」とは他人(財物の正当な権利を有する者)から受託した財物にあたり、こうした受託物は保険による補償があると粗末に扱われがちで不正な保険金請求を行う危険(モラルリスク)が高まるため、補償対象外とするものの、海外旅行においてはホテルの客室や動産といった他人(ホテル業者など)から一時的に借用した財物を損壊して損害賠償責任を負担することが十分想定されることから、この部分に限り範囲を拡げて補償するというものです。
注5 現金、小切手、預貯金証書、クレジットカード、定期券、コンタクトレンズ、サーフィン等の運動を行うための用具などは、補償の対象に含まれていません。なお、被保険者が所有しているものだけでなく、「親族から借り入れた身の回り品」まで補償対象にしている商品や、旅行行程開始前に被保険者がその旅行のために「他人から無償で借り入れた身の回り品」まで補償対象にしている商品を用意している保険会社もあります。
注6 損害額を「時価」で算定した保険金が支払われますが、修理不能などの全損の場合に「新価(同等の商品を新品で購入できる価格)」で算定した保険金を支払う商品を用意している保険会社もあります。
補償内容のうち、傷害・疾病による死亡・後遺障害・治療費用の補償について、保険金が支払われない主な場合をまとめると、次のとおりとなります。
傷害・ 疾病共通 |
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傷 害 |
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疾 病 |
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注7 テロ行為による身体障害については、保険会社で用意している商品の多くは補償対象としています。
注8 妊娠などに起因する治療は、偶然性に欠けるため補償対象外になりますが、妊娠初期段階での異常を原因とした治療については補償対象としている商品を用意している保険会社もあります。また、歯科治療は、すでにその原因が旅行開始前に発生している場合が多く偶然性に欠けるため補償対象外になりますが、歯の痛みを一時的に除外する応急処置治療などについては補償対象となる商品を用意している保険会社もあります。
通常、海外旅行保険を契約する場合には、保険期間を旅行日数に合わせて契約することになります(注9)が、留学や駐在といった海外で長期に滞在する場合には、保険期間を長期(滞在日数)に設定するとともに必要な補償を追加(注10)するなどして契約することが可能になっています。ただし、帰国予定のない場合や海外に永住される場合には、契約できません。
注9 被保険者の責めによらない次のような事由により帰国が遅延するときは、追加保険料を負担することなく保険期間の終了が自動的に延長される措置がとられます。
【①最長72時間を限度に延長】
- 被保険者が乗客として搭乗しているまたは搭乗予定の航空機、船舶、車両などの交通機関のうち、運行時刻が定められている交通機関の遅延、欠航、運休
- もしくは交通機関の搭乗予約受付業務に過失があったことによる搭乗不能(いわゆるダブルブッキング)
- 被保険者が医師の治療を受けたこと
- 被保険者の旅券の盗難・紛失(ただし、被保険者が、旅券または渡航書の発給を受けた場合に限る)
- 被保険者の同行家族または同行予定者が入院したこと
【②正常な旅行行程に復帰できるまでに要する時間で保険会社が妥当と認める時間を限度に延長】
- 被保険者が乗客として搭乗している交通機関または被保険者が入場している施設に対する第三者による不法な支配または公権力による拘束
- 被保険者に対する公権力による拘束
- 被保険者が誘拐されたこと
- 日本国外において、空港が閉鎖された結果、被保険者がその空港所在国を容易に出国できない状態になったこと
注10 通常の海外旅行保険は、短期旅行者を対象とした商品であることから、例えば、①借家人賠償責任、②自家用車の損害賠償責任、③家財の損害といった長期海外滞在時に特有に発生する可能性がある危険(リスク)には対応していない内容になっています。このため、これらを補償する特約が用意されています。
海外旅行保険は、その名称のとおり傷害保険を中心に様々な補償を用意した商品ですが、通常の傷害保険とは異なる次のような特徴があります。
- 1.
- 傷害により医師の治療を受けた場合、普通傷害保険や家族傷害保険などは、あらかじめ契約時に定められた金額が保険金として支払われる「定額払い」であるのに対して、海外旅行保険は、契約時に設定した保険金額を限度として治療のために要した「実費」が支払われることになります(傷害死亡保険金および傷害後遺障害保険金については「定額払い」)。これは、海外では治療に要する費用が高額になるなどの実情(「問81」参照)を考慮したためです。
- 2.
- 普通傷害保険などでは保険金が支払われない「地震・噴火またはこれらによる津波」による傷害についても補償されます。これは、海外旅行保険では、損害は、旅行者の傷害など一定規模に限られており、集積損害が発生しないと考えられるためです。また、普通傷害保険などでは対象外としている「細菌性食中毒・ウイルス性食中毒」についても、一定期間内に治療を受ければ補償の対象となります。
- 3.
- 山岳登はんやスカイダイビングなどの危険な運動に伴うケガについては、普通傷害保険などでは割増保険料を支払っていない場合には保険金が支払われませんが、海外旅行保険では、次の割合で保険金が削減されて、支払われます。
最後に、海外旅行保険の契約方法としては、保険会社や代理店での契約のほか、インターネットや空港でも契約することができます。保険会社によっては空港に専用窓口や自動販売機を設置して対応しています。自動販売機で契約する場合、ガイダンスに従い、名前、住所、傷害保険の契約状況などを入力し、これが終わると「申込書(控)」が出力されます(保険会社によっては自宅に郵送するサービスを行っているところもあります。)。保険証券は入力した住所に郵送されます。
公的医療保険(健康保険など)における海外療養費制度
- 海外旅行でケガをしたり病気にかかって海外の医療機関の診療を受けた場合、日本の健康保険証は使用できませんが、健康保険制度で認められている医療費については、帰国後に保険者(市町村や健康保険組合など)に申請すれば、国内価格に換算したうえで、自己負担分(通常3割)を除く部分が給付されます。
- 申請にあたっては、保険者が用意する「海外療養費支給申請書」のほか、現地の医師などが記入した「海外診療内容明細書」や「領収明細書」などが必要となり、この2つの明細書が外国語で作成されている場合には日本語の翻訳文を添付する必要があります(翻訳手数料については申請者負担となります。)。
- なお、この海外療養費制度は、治療が目的で海外に渡航した場合には適用されないことになっています。また、治療費は国ごとに異なるため、その費用のすべては給付されず、国内の医療機関で同様の治療を受けた際の治療費を基準とすることになっています。例えば、海外で盲腸(虫垂炎)の手術を受けると国によっては高額な治療費がかかる場合があります(「問81」参照)が、日本における平均的な治療費(約40万円)が基準となり、そこから自己負担分を除く部分が給付されることとなります。
- ●参考文献:
- 東京海上火災保険株式会社 編 「損害保険実務講座7 新種保険(上)」(有斐閣、1989年4月発行)130〜134ページ