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くるまの保険 / 自賠責保険

問1

自賠責保険は、どのような保険ですか。

答え
自賠責保険(自動車損害賠償責任保険)は、自動車による人身事故の被害者を救済するために、すべての自動車に契約することが義務付けられている強制保険です。

自賠責保険(自賠責共済)は、自動車損害賠償保障法(自賠法)(注1)に基づき、自動車による人身事故の被害者を救済するために、すべての自動車に契約することが義務付けられている強制保険であり、商品内容・保険料について保険会社(共済組合)間で差異はありません。また、保険会社(共済組合)には引受義務があります。

注1 自動車損害賠償保障法(自賠法) 第1条(この法律の目的)、第3条(自動車損害賠償責任)、第5条(責任保険又は責任共済の契約の締結強制)

第1条
この法律は、自動車の運行によって人の生命又は身体が害された場合における損害賠償を保障する制度を確立することにより、被害者の保護を図り、あわせて自動車運送の健全な発達に資することを目的とする。
第3条
自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によって他人の生命又は身体を害したときは、これによって損害を賠償する責に任ずる。(以下略)
第5条
自動車は、これについてこの法律で定める自動車損害賠償責任保険又は自動車損害賠償責任共済の契約が締結されているものでなければ、運行の用に供してはならない。

自賠責保険で保険金が支払われるのは、他人を死傷させるなど人身事故による損害賠償の場合に限られます。また、次のとおり、被害者1名について支払保険金に限度額が設けられています。

損害の内容 被害者1名あたりの限度額
ケガによる損害 120万円
後遺障害による損害
(注2)
神経系統の機能または精神・胸腹部臓器に著しい障害を残し、介護を要する後遺障害 常時介護を要する場合(第1級) 4,000万円
随時介護を要する場合(第2級) 3,000万円
上記以外の後遺障害 (第1級)3,000万円
〜(第14級)75万円
死亡による損害 3,000万円

注2 後遺障害における「等級」の認定
後遺障害による損害では、障害の程度により第1級〜第14級の等級が認定されます。支払保険金の限度額は等級別に定められています。

自賠責保険では、自動車による人身事故の被害者を救済することを目的としているため、保険金が支払われない場合を極めて限定しており、具体的には次のような場合には保険金が支払われません。

1.
契約者または被保険者の悪意(故意が明白であること)による場合
2.
重複契約(注3)の場合
3.
加害者(運行供用者(注4)および運転者)に責任がない場合
4.
電柱に自ら衝突するようないわゆる自損事故で死傷した場合
5.
自動車の運行(注5)による死傷ではない場合
6.
被害者が他人(注6)ではない場合

なお、上記「1.」の場合には自賠責保険からの保険金は支払われませんが、被害者から加害者が契約している保険会社に対して損害賠償額を直接請求することができます(これを「被害者請求」といいます。この直接請求権は自賠法によって保障された権利ですので、悪意の場合に限らず、自動車の運行による損害賠償責任が発生していれば、被害者はこの権利を行使することができます(「被害者救済制度としての自賠法」参照)。また、保険会社は支払った金額について政府に対して補償を求めることができます。

注3 重複契約の場合の保険金支払い
自賠責保険では、自動車保険とは異なり、重複期間中に発生した事故に対しては、契約日の最も早い契約から保険金が支払われ、その契約以外からは保険金が支払われません。

注4 運行供用者
自賠法第3条の「自己のために自動車を運行の用に供する者」を「運行供用者」といい、自賠法では、自動車の所有者や自動車を使用する正当な権利を有する者だけではなく、例えば泥棒運転した者も「運行供用者」に含まれる場合があると解釈されています。

注5 自動車の運行
自賠法における「運行」(※)とは、自動車の走行中だけではなく、駐停車中も含まれるとともに、自動車に構造上設備されているすべての装置を本来の目的に従って使用する場合、例えばクレーン車のクレーン操作中なども、「運行」と解釈されています。

自賠法 第2条第2項(定義)
この法律で「運行」とは、人又は物を運送するとしないとにかかわらず、自動車を当該装置の用い方に従い用いることをいう。

注6 他人の範囲
自賠法における「他人」とは、運行供用者および運転者以外の者を指します。運行供用者および運転者以外であれば、配偶者や子などの家族も「他人」になります。

自賠責保険の保険料は、適用地域別(本土、本土離島、沖縄本島、沖縄離島の別)、車種別、保険期間別に定められています。

(本土、2021年4月1日以降の契約、単位:円)

  12ヶ月
契約
13ヶ月
契約
24ヶ月
契約
25ヶ月
契約
36ヶ月
契約
37ヶ月
契約
48ヶ月
契約
60ヶ月
契約
自家用乗用自動車 12,700 13,310 20,010 20,610 27,180 27,770
自家用
普通貨物自動車
最大積載量
2トン超
21,130 22,430 36,710 37,980
最大積載量
2トン以下
19,120 20,250 32,730 33,840
自家用小型貨物自動車 14,280 15,020 23,150 23,870
小型二輪自動車 7,270 7,440 9,270 9,440 11,230 11,390
軽自動車 検査対象車 12,550 13,150 19,730 20,310 26,760 27,330
検査対象外車 7,540 9,770 11,960 14,110 16,220
原動機付自転車 7,070 8,850 10,590 12,300 13,980

被害者救済制度としての自賠法

  • 自賠責保険は自賠法に基づいて創設された保険ですが、自賠法に規定されている内容の中で、特に重要な特徴は次の2点であるといわれています。
    自動車による人身事故の賠償責任を適正にする措置として、自動車側の賠償責任をほぼ無過失責任に近い形にしていること。
    自動車側の賠償能力を常時確保する措置として、自賠責保険の契約締結を強制化していること(あわせて、ひき逃げ事故のように加害者が不明な場合などは、政府が被害者の損害を補償(政府保障事業)すること(「問39」参照)。
  • 上記の措置を導入することとした背景・理由などは、以下のとおりです。
    自賠法が制定された1955年当時は、自動車の保有台数が急増し、交通事故が激増したことに伴い、事故の加害者に十分な賠償能力がないなどのため、相応の損害賠償が得られず泣き寝入りを余儀なくされる被害者が続出していた時代であった。特に、自動車の人身事故の損害賠償請求は、他の賠償事案と同様に民法第709条に規定する「不法行為責任」に基づいて行わなければならず、加害者の故意・過失を被害者側が立証する責任があったことが、被害者救済にとって大きな支障になっていた(法律的知識に乏しい被害者が立証するのは容易ではなかった。)。こうした民法の規定に基づく被害者救済には限界があることから、立証責任を自動車側に転嫁する法的整備(無過失責任に近づけた法規制)が必要になっていた。
    立証責任の転嫁は被害者の損害賠償請求を容易にさせるものの、請求される加害者側が十分な賠償能力を保持していなければ、被害者救済の目的は実効性のあるものにはならない。そこで、加害者側である自動車の保有者に対し強制化する保険(自賠責保険)を設け、この保険を契約していない自動車については運行を禁止することで、目的の達成を図ることとした。また、保険を強制化したとしても、契約を締結した自動車が特定できないひき逃げ事故の場合などでは、自賠責保険からの保険金支払いができなくなることから、政府が代わりに保険金に相当する金額を保障金として支払うことにより、自賠責保険と同様の救済を与えることとした。
  • また、被害者救済をより実効性のあるものにするには、事故が発生したときに迅速に保険金を支払う体制を整備しておく必要があり、そのために保険金の支払額をある程度限定したうえで被害者への便宜を図る措置も講じられています。具体的には、前記の「被害者1名あたりの限度額」(ケガのときは120万円、死亡のときは3,000万円を限度など)を設定して、この中で事故にあった被害者が当面の生活費や治療費の支払いに苦しまないように、被害者は、加害者との示談が成立していない状況(つまり、示談交渉中)であっても、自賠責保険の保険会社に損害賠償額や仮渡金(「問36」参照)を直接請求すること(前記の「被害者請求」)が可能になっています(注7)。

注7 保険会社に対する被害者の直接請求の取扱いは、自動車保険(対人賠償保険)にもあります。ただし、自賠責保険の取扱いとは異なる部分がありますので、注意が必要です(「対人賠償保険と自賠責保険の被害者請求の違い」参照)。

●参考文献:
「自賠責保険のすべて(13訂版)」(保険毎日新聞社)2〜10ページ

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